ニコラさんが僕に戦ってるとこを見てって言ったのって、もうすぐ夕方になっちゃうから宿屋さんに帰ろうって思った時でしょ?
だから僕、それを見たら変えるんだろうなぁって思ってたんだ。
でもね、
「それで、ルディーン君。その正しい剣の振り方っていうのはどのようなものなの?」
ニコラさんは、今から僕に剣の振り方を教えてって言ったんだよね。
「今から教えるの?」
「ええ。ルディーン君は近いうちに村へ帰ってしまうんでしょ? ならそれまでにこんな機会があるかどうか解らないもの」
そう言えば僕、明日はロルフさんとバーリマンさんのお手伝いで錬金術ギルドに行くんだっけ?
でもニコラさんたちは明日もこのお家に来ることになってるから、一緒にいないんだよね。
それにね、もしロルフさんたちが作ろうと思ってるお薬ができちゃったら、僕とお爺さん司祭様は村に帰る事になるでしょ?
だからニコラさんの言う通り、もしかしたら今しか教えてあげる事はできないかもしれないんだ。
「そっかぁ。うん、ちょっとだけだったらいいよ」
「ありがとう。それで、具体的にはどうやったらしいの?」
「やってみるから、アマリアさん。剣貸して」
ニコラさんのだとおっきすぎて僕じゃ振れないんだよね。
だから一番小っちゃいアマリアさんから剣を借りて、こうやるんだよって振って見せたんだ。
「わかった?」
「えっと、すごくきれいに振っているなぁとは思うけど……」
「自分のどこをどうしたらそんな風に振れるようになるのか、今のを見ても解らないわ」
でもね、ニコラさんたちは僕が剣を振ったのを見ても解んないって言うんだよね。
だから僕、よく見ててねって言って、もう一回振って見せたんだ。
「今度はわかったでしょ?」
「ごめんなさい。やっぱり見ただけじゃ解らないわ」
ニコラさんたちはね、僕の件の振り方が自分たちと違うのは解るそうなんだけど、じゃあどこがどう違うのかまでは解んないみたいなんだよね。
「なにかこう、解りやすい説明みたいなものは無いのかな?」
「そうだ! ルディーン君はお父さんから教わったのよね? その時はどんな風に教わったの?」
「僕の時?」
ユリアナさんにお父さんはどう言ってたの? って聞かれたから、僕はその時の事を思い出したんだけど……。
「お父さん、僕が最初に剣を振った時、初めてなのにきちんとできてるってびっくりしてた」
「えっ? それじゃあルディーン君は、何も教わらなくてもできてたって事?」
「うん。最初に振った時は地面叩いちゃったけど、でも振り方はよかったって言ってたよ」
お父さんにと一緒に初めて剣の練習をした時、もうちゃんと剣を振れてたみたいなんだよね。
僕ね、それは多分賢者のジョブを持ってたからだと思ってたんだけど、
「そっか。小さいころからずっとお父さんたちの鍛錬をする姿を見て育っていたから、頭の中にある正しい振り方の通り体が動いたのね」
そしたらニコラさんがこんなこと言ったもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだ。
「頭の中にあると、うまく剣が振れるの?」
「全員がそうとは言わないわよ。でもね、例えば鍛冶屋の子供は小さいころから親の私語をと見て育つからなのか、家を継がずに冒険者になったとしても武器の手入れとかは美味い人が多いのよ」
「そうね。ルディーン君もそれと同じで、お父さんやお母さんの剣の振り方が頭に焼き付いていたのかも?」
僕ね、剣の練習は8歳になるまでしちゃダメって言われてたからやった事無かったけど、お父さんやお兄ちゃんたちが練習してるとこは毎日近くで見てたんだよね。
だからニコラさんたちが言う通り、剣の振り方はちゃんと解ってたって思うんだ。
もしかするとそこに賢者のジョブがついたもんだから、最初っからお父さんがこうした方がいいって思ってる振り方ができたのかもしれないね。
「でもさ、そうなると言葉で教えてもらうのはちょっと無理そうね」
「そういう指導を受けていないって事だものね」
ニコラさんたち、僕がお父さんからどうやって教わったのかを聞いて、その通りやってみようって考えてたでしょ?
なのに最初っからちゃんと振れてたから教えてもらってないって聞いて、3人ともしょんぼりしちゃったんだ。
でもね、そんなニコラさんたちを見たお爺さん司祭様がこう言ったんだよ。
「いや、そうとも限らぬぞ」
「えっと、それはどういう事でしょう?」
「ふむ。ルディーン君。君は最初からきちんと剣を振る事ができたと言っておったが、それを見たカールフェルトさんはそれ以上何も言わなかったのかな?」
「他に言った事?」
お爺さん司祭様にそう言われて、僕は頭をこてんって倒して考えたんだよ。
そしたらさ、お父さんが言ってた事を思い出したんだ。
「そうだ! あの時お父さん、僕の振り方を見てきちんと刃がたってて太刀筋のブレもほとんどないって言ってた!」 、
「思うに、そのふたつが剣を振るうのに必要な事なのであろうな」
お爺さん司祭様はね、ニコラさんたちにそのふたつを頭に入れてもう一回見てみたら? って言うんだよ。
それにね、僕にもさっきより湯っ振り振ってみてって言うんだ。
「先ほどと同じ速さで振っては、刃をたてるという意味どころか太刀筋にブレが無いという事すら見えぬかもしれぬであろう? だからそれがはっきりと解るように振ってみてはどうかな」
「うん、わかった! ニコラさん、ゆっくり振るから見ててね」
「ええ、お願い」
僕はそう言うとね、カテリナさんから借りてる剣を構えなおしたんだ。
そしたらそこで僕は、お父さんからもう一個言われた事がある事を思い出したんだよね。
「そうだ、ニコラさん。お父さんね、一番最初に僕の剣の構え方を見てたよ」
「構え方?」
「うん。これも僕、最初っからできてたから忘れてたんだけど、ほんとは何度やってもちゃんと構える事ができるようになるまで練習してからじゃないと、剣を振る練習はさせてくれないんだよって言ってた」
お父さんね、ちゃんとした剣の握り方とか足の開き方をしてないと剣をうまく振れないよって言ってたんだよね。
だから僕、剣を振る前にどうやって構えてるのかを見せてあげたんだ。
「剣はこう握ってね、足はこんな感じに開くんだ」
「えっと、こうかしら?」
ニコラさんはそれを見ながら、自分も同じように構えてみたんだ。
でもね、
「う〜ん、剣の握り方はともかく、足の開き方は体の大きさが違いすぎてよく解らないわ」
ニコラさんはとっても背が高いから、ちっちゃな僕の構えを見ても足の開き方とかがよく解んないみたい。
でもね、握り方って今までと全然違うから、それだけでも勉強になるんだって。
「これからはどんな時でもこの握り方ができるように練習するとして。それじゃあ、ルディーン君。もう一度剣を振る所を見せてもらえるかな?」
「うん、いいよ。それじゃあゆっくりと振るから、見ててね」
そんな訳で、僕は剣を振りかぶるといつものように、でもかなりゆっくりと剣を振り下ろしたんだ。
そしたらさ、ニコラさんたちはうんうんと頷きながらこういう事なのかって。
「ニコラさん、今度はわかったの?」
「ええ。ゆっくり振ってもらえると確かに全くぶれる事なく、そして剣の刃もまっすぐ下りてきているのが解ったわ。あれが刃をたてるっていう事なのね」
「それと、さっきドーンって叩くんじゃなくて切るんだと言っている意味も解った気がする」
「うん。振り下ろすとき、手首を返しながら確かに引いてたもん」
お爺さん司祭様が言った通り、ゆっくり振る事でニコラさんたちにも解ったみたい。
でもね、実際におんなじことをやろうとしてみたら、
「だめ。ゆっくり振っても刃が真っすぐに降りてくれない」
「それに振るたびに剣の軌道がちょっとずつズレちゃう。これが太刀筋がぶれるってやつなのね」
こんな風に、何度やってもうまくできないみたい。
「ふむ。こうしてみると村の者たちは皆、かなり大変な事をさらりとこなしておるのだな」
そしてそんなニコラさんたちを見たお爺さん司祭様は、グランリルの人たちはみんなすごい事をやってたんだねって、ちょっと感心したようなお顔でうんうんと頷いてたんだ。
何かをまっすぐ振り下ろすって、実を言うとかなり難しいんですよ。
例えば金づちで釘を打とうとして斜めになってしまったり、途中で釘が曲がったりした事、ありませんか?
これは金づちが狙った場所に落ちていないから起こるのですが、ニコラさんたちはそれよりもはるかに大きい剣を、それも刃をたてて振り下ろそうって言うんですからね。
それに、今までの狩りで染みついた癖もあるでしょうから余計に大変だと思います。
まぁだからこそグランリルの村では、きちんと教える年齢になるまで真似事でも剣の練習をしてはいけない事になっているのですが。